p.153 56. 日中終日の保護者の付き添い

 「特別支援学校(学級)適」と判定された子ども(の保護者)が、それに抗って学区の小学校に入学を希望すると学校・教育委員会(自治体の学務課)・保護者の三者での面談が、場合によっては3月中下旬まで果てしなく繰り返されます。

 多くの場合、学校・教育委員会側が判定に従うように説得し、保護者は学区の小学校を望むことを主張する、という押し問答がギリギリまで繰り返され、期限(と何回話し合いを持ったかという記録)を迎えると時間切れとばかりに学区の小学校への就学通知が出されることになります。

 このとき、教育委員会が「入学の条件」として必ず提示してくるのが「保護者の終日付き添い」です。 

 トッキーの時は、5分前に急きょこしらえてプリントアウトしたような紙ペラ一枚で、同意を確認する署名欄もなく「保護者のご希望に沿い就学通知を出すにあたって、終日の付き添いを条件とする」という一方的な「通知」でした。これでは「仕方ない。承知しました」「冗談じゃない!」、……どんな返答だとしても保護者の側からは一切返すタイミングがありません。

 学齢の子の全員就学が分離教育という最も間違った形で始まり(その対抗策として統合教育が生まれて以来)「保護者の終日付き添い」は、あまりにも当たり前のように求められて来て、当たり前のように請け負われ続けて来たもののひとつです。

 もう一つ注目してほしいのは、これは特別支援学校・学級(分離教育)か一般の小中学校(統合教育)かは問わず、医療的ケア(p. 62 ・脚注27参照)が必要な子どもの保護者は、医療的ケアを行うために、全く同じように入学の条件として「保護者の終日付き添い」が求められてきたことです。医療的ケアは医療従事者か家族しか行えないことになっているからです。

 数年前、介助士や特別支援学校の教師に限ってですが、医療従事者と家族以外が、それを行う途が開ける制度ができましたが、ほとんど資格取得と変わらないほどの負担の大きい研修を修了しなくてはならないというものですし、事故を怖れて請け負いたがらない事業所も多く、状況はほとんど変わっていません。
 もし、保護者が付き添いを断れば、その子は「訪問学級(通学はせず週に何時間か教員が訪問して授業をする仕組み)」になります。


 あまり深く考えず「子どもの面倒は親が看るもの。付き添いは当然」という人もいます。また「親元を離れて社会に大事な一歩を踏み出すのが学校。本音を言えば、誰かの親がいるのでは魅力半減」と思いながら「でも色々心配ごとやお母さんでしかできないことがあるのも理解しなくては」と口をつぐんでいる保護者も。いずれにしても、保護者が「当然の義務として」「望んで」付き添っていると思い込んでいる人は結構、います。

 しかし、少し興味を持って(例えば、自分に置き換えて)想像してみれば、学校運営云々以前に、それを強制することがいかに保護者である人の人権を侵害しているか分からない人はいないでしょう。

 この付き添いの強制について、平成262014)年この国がようやく批准した国際障害者権利条約において、差別のひとつである「異別取り扱い」にあたるとして「障害がある子どもの親の付き添いの強制をなくそう!キャンペーン」が始まりました。
 平成282016)年春から施行した「障害者差別解消法」を根拠に、この、長年公然と行われて来た人権侵害を明らかにし、強制の禁止を求める主張は必ず認められるだろうと確信し(この事に限りませんが)人権を侵害されたひとりとして応援しています。

 同時に、統合教育実現運動の「障害のある子のための」「障害がある子の保護者のための」対抗策が主張を変容してしまったように、団体としての主張を汎用化しようとするあまりコンセンサスを取ろうとして抽象化するのではないかと若干の危惧も感じています。今のまま、個々のリアルな訴えを生のままに集めて拡声し、ともに学校(環境)が生まれ変わるために葛藤して知恵を絞る……そんな有機的な運動になって欲しい、と願っています。


文部科学省による「障害のある児童生徒の学校生活における保護者等の付き添いに関する実態調査の結果(概要)平成272015)年51日」はこちら↓


「障害のある子どもの親の付き添いの強制をなくそう!キャペーン」のホームページはこちら

http://www.nakayoku.org/tsukisoi/

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