p.249 86. 生活保護バッシング

 発端は平成242012)年に「人気者のお笑い芸人・河本準一さんのお母さんが生活保護を受給している」という女性週刊誌に掲載された記事でした。これを国会で当時「自民党生活保護プロジェクトチーム」の一員だった片山さつき参議院議員が「生活保護不正受給の例」として実名入りで紹介、これを根拠に(!)「不正受給が増えている」と与党を追求したのです。

 河本さんの謝罪と過剰に受給していたとされる生活保護費を返還する報告会見よって、お母さんのそれまでの受給に不義・不正はなかったことが明らかになりましたが、その会見までの間にマスコミがこぞって行った報道が「不正受給問題の追求」ではなく扇情的な「生活保護受給者」に対するバッシングだったために、視聴者はその影響を受けて生活保護受給そのものを非難し「働かざるもの喰うべからず」などと言う人が増えました。その「コメント」「書き込み」などを読むと、多くは改悪した労働法のもと、自分やわが子が心をズタズタにしながら身を粉にするまで働かされ、それでも生活が楽にならない、でもそれを社会構造側の問題とは気づかず自分の、自分で解決・調整すべき問題としてなす術もなく抱え込んでモヤモヤしている人たちでした。

 そして、このガサガサした負の感情を政治は「この制度に対する国民の信頼を失った」と表現し利用しました。
 平成252013)年暮れには、改正生活保護法が生活困窮者自立支援法とともに成立、翌年夏から施行されました。「国民の信頼を回復すべく生活保護不正受給をなくそう」と取られた対策はゾッとするものでした。

 それまでも生活保護制度は、他のこの国の多くの制度活用と同様、当事者自身が申請を行い受理されてはじめて活用できる(申請主義)、人の命の瀬戸際を守るにふさわしくない仕組みによるものでした。

 しかし、少なくともそれまでは認められていた口頭での申請が通用しなくなり、申請書の提出が必要になりました。中には字が書けないかたや読めないかた、書式の記入に不慣れなかたもいるのです。虐待から逃れて身を隠しているなど、記入内容の確認のための書類を取り寄せることができない事情のあるかたもいます。申請をあきらめさせる改悪であることは間違いありません。

 また「直系の血族」が(自動的に)扶養義務者であることは、民法で定められてはいますが、それまでは「扶養できる状況か」お伺いを立てるという姿勢だったものが、申請書の内容に間違いがないか徹底追及するため、扶養義務者にあたる親族すべてに連絡が行くばかりか、それらの預金残高や収入証明のために銀行や勤め先にまで調査が入ることになりました。
 「人のお世話にならない」という美徳は、戦中から戦後の復興時も復興を手放しに「よいことだった」と賛美してきたその後も、この国で政治的に利用され人々にすり込まれてきました。多数の人のそういうメンタリティを考えれば「最後の砦」に訪れるタイミングはギリギリの状況でしょう。申請書にスラスラと記入し必要な証明書類を添付してスマートに提出できる状況の人が、一体どれくらいいるでしょうか。親族やその勤め先に連絡が行くと聞いて、それでも構わない、という人がどれくらいいるというのでしょうか。


 申請をあきらめろ、ということは、命をあきらめろ、ということですよね?

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