p.58 23. ヒトゲノム計画完了

 デオキシリボ核酸(DNA)とは、生物の遺伝情報(ゲノム=2346本の染色体)を作り受け継ぐ役割を果たす生体物質。昭和281953)年、米国のワトソン博士とクリック博士が、ヒトのDNAの構造が二重らせん構造であると提唱し、分子模型を作って示しました。

 1980年代半ばに米国で「DNAの配列を全て解読し、その染色体になんの遺伝情報が載っているか明らかにしよう」と始まったのがヒトゲノム計画の始まりでした。
 30億ある塩基対(えんきつい=DNAのうち2本の分子がアデニン(A)とチミン(T)(もしくはウラシル (U))、グアニン (G)とシトシン (C)と水素結合で結合したもの)を全て調べるという方法です。後にヨーロッパ各国や日本も参入し、平成152003)年に二重らせん構造発見50周年記念の年!絶対、偶然ではないですね……完了しました。

 私がこのことで一番印象に残ったのは「チンパンジーとヒトのDNAは99%同じ」という結果でした(「犬とヒトは80%」「バナナとヒトは50%同じ」だそうです)。えっ?と戸惑い「分からないということが分かり、それをとても面白がったのは、遺伝カウンセリングの結果を聞いた時とまったく同じでした。少なからず、医療従事者を含め、世間一般の人が「分からないということを分かる」大切な機会を得た出来事だったように思います。多くの人が自然を御することに対する欲望を失った(目が覚めた!)ような印象を受けました。

 それに抗うようにビジネスの世界は、何とかしてこの出来事によって欲望を再び植え付けようと必死の努力をはじめ、残念なことに成功していますが……。


 余計なことですが、ワトソン博士は、せっかく偉業を讃えようとお膳立てしてもらったゲノム計画完了数年後、「黒人は遺伝的に劣っている。黒人を白人と同じ人間と捉えてアフリカに対して行っている施策は間違っている」と公言して以来、当然のことですが、大いに批判を浴びて職と名声を失いました。全ての人がそうではないのでしょうが、やはり「遺伝医学」に関心を持つ人の動機の中に、メンデルから受け継がれて来た優生思想のDNA(こういう言葉の使い方をするから話がややこしくなると分かりつつ!)を見てしまいます。

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