当時のUNESCO(=United Nations
Educational, Scientific, Cultural Organization)第七代事務局長、サラマンカ声明のフェデリコ・マヨール( Federico Mayor )による前文とそれに続く「ひとりひとりが必要とする配慮に対応できる(スペシャル・ニーズ)教育における原則・政策・実践に関するサラマンカ声明」を紹介します。
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前文
平成6(1994)年6月7~10日、92の国の政府と、25の国際組織を代表する300名以上の人が、スペインのサラマンカという町に集まりました。学校が、すべての子どもたちが一緒に学べるように生まれ変わるにはどうしたらいいか、そのために国や組織は何をしたらいいかを考える会議に出席するためです。
すべての子どもたちがいっしょに学べる学校教育を「インクルーシブ教育(万人のための教育)」といいます。 スペイン政府が、UNESCOと協力して開いたこの会議に出席したのは、国連と専門機関のほか、国際的な政府の組織、非政府の組織、資金を提供する団体の代表、教育行政の担当者、政治家、法律家、ほか専門家などです。
会議では「サラマンカ声明ならびに行動の枠組み(Salamanca
Statement on principles, Policy and Practice in Special Needs Education and a
Framework for Action)」という条文が採択されました。そこには、学校が「万人のための学校」に生まれ変わり、そのことで教育がより効果的なものになること、そして、実現するにはどんな行動をとったらいいかが具体的に提案されています。
「万人のための学校」の姿はどんなものでしょうか。そこでは、ひとりひとりの違いは個性として大切にされ、学びを応援してもらえ、ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ, special needs)があれば対応してくれます。だから、すべてのこどもが一緒に学ぶことができるのです。
ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育の実現は、世界中のどの国にとっても大切な課題です。それぞれの国や地域でバラバラに進展させられるものではありません。「通常の(多くの子どもたちが当たり前に通っている)学校」が大きく生まれ変わることが求められていることから分かるように、教育分野全体にとっての課題、新しい社会・経済政策を形づくる要素のひとつだからです。
この条文は世界的な合意として、個別に必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育のこれからの方向性について示しています。UNESCOは、この会議とこの声明にかかわることができたことを光栄に思っています。
この会議に参加した人は、「万人のための教育」が「すべての人のため(for all)」――とりわけ、教育弱者されてきた、配慮の必要な人びとのためのものであることを念頭に、チャレンジし行動しなくてはなりません。
未来というものは運命で決まるのではありません。われわれの価値観・思考・行動によって変えられるものなのです。
これを読むすべての人びとは、それぞれ責任をもつ分野で、サラマンカ声明の提案を実践(じっせん)する努力をしてください。書かれた内容が、実効力のあるものになるように支援してください。
フェデリコ・マヨール
ひとりひとりが必要とする配慮に対応できる(スペシャル・ニーズ)教育における原則・政策・実践に関するサラマンカ声明
昭和23(1948)年の世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)には、どんな人間でも教育を受ける権利があることがしめされました。そして平成2(1990)年、この権利をあらためて確認し、保障しようという目的で行われた「万人のための教育に関する世界会議(World Conference on Education for all)」では、ひとりひとりが、あらゆる違いを尊重(そんちょう)される権利が約束されました。
平成5(1993)年には、国連(United Nations)は、国連に加盟する各国に対して「障害のある人びとがひとしく機会を得るための原則(Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities)」を示し、障がいのある人たちの教育を例外として扱うのをやめ、教育組織全体のこととして認識するように求めました。
学校教育が、ひとりひとりの必要な配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できるように生まれ変わること、それまで必要な配慮が得られないため同じ学校に通いなかった沢山の子どもたちが通えるようになること。それぞれの国の政府、支援グループ、地域社会や保護者の集まり、そして特に障がいのある人びとによるグループが、そのことに高い関心を寄せていることをとても心強く思っています。この世界会議においてたくさんの国の政府、専門機関、政府間組織の代表たちが積極的に参加していることが、その何よりの証拠です。
わたしたちは、以下を宣言します。
① 92の政府と25の国際組織を代表し、平成6(1994)年6月7日から10日にかけ、ここスペインのサラマンカに集まった「ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育に関する世界会議」の代表者であるわれわれは、それぞれ必要な配慮を求める子ども・若者・大人が、通常の教育システムの中で共に教育を受けることが、緊急に必要であると認めます。
そして「ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育についての行動のわく組み」を承認しました。それぞれの国の政府や組織は「万人のための教育」についてのわれわれの公約を、そこで決められたことや勧められている精神にのっとって実現していきます。
② われわれはこう信じ、かつ宣言します。
●すべての子どもは誰であれ、ひとしく教育を受ける基本的人権をもちます。 学習して、それを継続(けいぞく)するのは、基本的人権です。
●すべての子どもは、それぞれユニークな存在です。ひとりひとり違う性質・関心・能力をもち、配慮が必要なことがあります。
● 教育システムは、このようにバラエティに富んだ性質や必要な配慮を前提にして計画・立案・実施されなければなりません。
● 必要な配慮を求める子どもたちも、皆と同じ通常の学校に通えなければなりません。学校は、子どもたち中心の教育学の枠内で、すべての子どもの必要に応じられるように生まれ変わらなくてはなりません。
● このインクルーシブな普通の学校こそ、人種差別というあやまった態度に抗い、すべての人が自然に受け入れられる社会――すなわちインクルーシブ社会を築き上げるのです。「万人のための教育」を実現する一番の決め手は、たくさんの子どもたちにとって効果的な教育の提供を目ざすことです。このことは、教育システム全体の効率を高め、結果として運営する費用の負担を減らすこともできます。
③ われわれはすべての国の政府に、これらを求め・勧めます。
● 個人差や固有に持つ困難な条件にかかわらず、すべての子どもたちを含むことが可能になるよう、教育システムを改善してください。それ実現することを優先して、政策や予算をたててください。
● インクルーシブ教育――すなわち、普通の学校の中にすべての子どもたちを受け入れる教育――の原則を、法律や政治の問題として取り上げてください。
● モデルケース(demonstration project)を開発してください。また、インクルーシブ教育に関して経験をもっている国々と情報を交換することをうながしてください。
● 子ども・大人たちの必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)の求めに応じるため、教育設備を計画、監視、評価する機関を設立していください。その機関は、それぞれ地域の実情にあわせて地域が参加できるものにしてください。
● ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育について、その整備のための企画・決定のさいには、障がいのある人びとの両親、住まう地域社会、所属する団体の参加をうながしてください。
● 早くからニーズに気づき、相談にのることも、インクルーシブ教育そのものに関することと同じように重要なこととして取り組んでください。
●「教育システムを変える」ことについての教育のプログラムは、教師の就任の前であれ後であれ、インクルーシブな学校における、ひとりひとりが必要とする配慮に対応する(スペシャル・ニーズ)教育の整備を前提としてください。
④ われわれはまた、国際社会にこれらのことを要求します。
● 各国の政府は、国際協力計画や国際的基金機関――特に「万人のための教育に関する世界会議」のスポンサーであるUNESCO、UNICEF(United Nations Children’s Fund)、国連開発計画(United Nation Development Program)、世界銀行(World
Bank)と共に「万人のための教育」の道を進むことを承認してください。そして、教育というものを考える上で不可欠な「ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育」の開発を支援してください。国連とその専門機関――ILO(International Labor Office)、WHO(World Health Organization)、UNESCOおよびUNICEFは「ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育」の国際的な広がりにそなえて、より効果的な支援をするため協力とネットワークを強化してください。また、同じように技術協力にもよりいっそう力を注いでください。
● 「ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育」のためのインクルーシブな学校整備に必要な計画や備品、評価などにかかる費用のため国の支出の負担が増えたとき非政府組織(NGO)は、プログラムとサービス提供について、国との協力を強化し援助してください。
●国連において教育についての機関であるUNESCOは、「万人のための教育」についてのあらゆる話し合いにおいて「ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育」が取り上げられることを約束してください。
⑤ 最後にわれわれは、この会議を組織したことについて、スペイン政府とUNESCOに心からの感謝の念を表明します。そして、世界社会開発サミット(コペンハーゲン・平成7(1995)年)や世界女性会議(北京・平成7(1995)年)のような国際的に重要なフォーラムにおいて、この声明にともなう「行動のための枠組み」に、多くの関心が向けられるように努力することを要請します。
※英語による原文全文はこのあとに続く「行動のための枠組み」も含み、下記のURLに掲載されています。↓
Salamanca statement(英語原文)
http://www.inclusiefonderwijs.nl/documenten/salamanca.pdf
“special
needs education ”という言葉は、日本では「特別ニーズ教育」「特別な教育ニーズ」と訳されることが一般的で、これが日本で10年ほど前に“特殊教育から転換”された「特別支援教育」という言葉のもとになっています。
しかし、ここでいう「ニーズ」は「ともに教育を受けるために必要な配慮」のことを示し「スペシャル」は特別という意味ではなく「それぞれの」とか「固有の」というニュアンスと読み取るのが妥当と思います。
すべての子どもたちがいっしょに学べる学校教育を「インクルーシブ教育(万人のための教育)」といいます。 スペイン政府が、UNESCOと協力して開いたこの会議に出席したのは、国連と専門機関のほか、国際的な政府の組織、非政府の組織、資金を提供する団体の代表、教育行政の担当者、政治家、法律家、ほか専門家などです。
会議では「サラマンカ声明ならびに行動の枠組み(Salamanca Statement on principles, Policy and Practice in Special Needs Education and a Framework for Action)」という条文が採択されました。そこには、学校が「万人のための学校」に生まれ変わり、そのことで教育がより効果的なものになること、そして、実現するにはどんな行動をとったらいいかが具体的に提案されています。
「万人のための学校」の姿はどんなものでしょうか。そこでは、ひとりひとりの違いは個性として大切にされ、学びを応援してもらえ、ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ, special needs)があれば対応してくれます。だから、すべてのこどもが一緒に学ぶことができるのです。
この条文は世界的な合意として、個別に必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育のこれからの方向性について示しています。UNESCOは、この会議とこの声明にかかわることができたことを光栄に思っています。
この会議に参加した人は、「万人のための教育」が「すべての人のため(for all)」――とりわけ、教育弱者されてきた、配慮の必要な人びとのためのものであることを念頭に、チャレンジし行動しなくてはなりません。
未来というものは運命で決まるのではありません。われわれの価値観・思考・行動によって変えられるものなのです。
これを読むすべての人びとは、それぞれ責任をもつ分野で、サラマンカ声明の提案を実践(じっせん)する努力をしてください。書かれた内容が、実効力のあるものになるように支援してください。
フェデリコ・マヨール
ひとりひとりが必要とする配慮に対応できる(スペシャル・ニーズ)教育における原則・政策・実践に関するサラマンカ声明
昭和23(1948)年の世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)には、どんな人間でも教育を受ける権利があることがしめされました。そして平成2(1990)年、この権利をあらためて確認し、保障しようという目的で行われた「万人のための教育に関する世界会議(World Conference on Education for all)」では、ひとりひとりが、あらゆる違いを尊重(そんちょう)される権利が約束されました。
平成5(1993)年には、国連(United Nations)は、国連に加盟する各国に対して「障害のある人びとがひとしく機会を得るための原則(Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities)」を示し、障がいのある人たちの教育を例外として扱うのをやめ、教育組織全体のこととして認識するように求めました。
学校教育が、ひとりひとりの必要な配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できるように生まれ変わること、それまで必要な配慮が得られないため同じ学校に通いなかった沢山の子どもたちが通えるようになること。それぞれの国の政府、支援グループ、地域社会や保護者の集まり、そして特に障がいのある人びとによるグループが、そのことに高い関心を寄せていることをとても心強く思っています。この世界会議においてたくさんの国の政府、専門機関、政府間組織の代表たちが積極的に参加していることが、その何よりの証拠です。
わたしたちは、以下を宣言します。
そして「ひとりひとりが必要とする配慮(スペシャル・ニーズ)に対応できる教育についての行動のわく組み」を承認しました。それぞれの国の政府や組織は「万人のための教育」についてのわれわれの公約を、そこで決められたことや勧められている精神にのっとって実現していきます。
● 教育システムは、このようにバラエティに富んだ性質や必要な配慮を前提にして計画・立案・実施されなければなりません。
⑤ 最後にわれわれは、この会議を組織したことについて、スペイン政府とUNESCOに心からの感謝の念を表明します。そして、世界社会開発サミット(コペンハーゲン・平成7(1995)年)や世界女性会議(北京・平成7(1995)年)のような国際的に重要なフォーラムにおいて、この声明にともなう「行動のための枠組み」に、多くの関心が向けられるように努力することを要請します。
Salamanca statement(英語原文)
http://www.inclusiefonderwijs.nl/documenten/salamanca.pdf
しかし、ここでいう「ニーズ」は「ともに教育を受けるために必要な配慮」のことを示し「スペシャル」は特別という意味ではなく「それぞれの」とか「固有の」というニュアンスと読み取るのが妥当と思います。
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